どの家族でも争いが多い事例ですが、親が病気になったり、身体が弱くなったりすると、兄弟の一部の方がやたらに親を訪問する回数が増えたりすることがあります。
本当に親のことを心配して訪問することが殆どだと思うのですが、まれにそのチャンスを狙って親の財産を相続しようと考える方もいます。
この事例もまさにそうでした。
このお客様をご紹介していただいた不動産コンサルタントの方が危ない兆しを見逃さず、提案書、民事信託などで争う前に対策できました。
こんな事例でした。
ご家族は、父親とそのご兄弟3名(長女、長男、二男)でした。
長男家族は父親の近所に住み、父親の面倒を見ていました。
二男は、自宅を出て暮らしていたのですが、時々父親を訪問しては、お小遣いをもらいに来たりしていたのです。
長男もそんな二男の行動は気にしつつも、父親からすれば末っ子だったので、可愛くて仕方ないから仕方がないと思っていたそうです。
そんなある日、その長男から相続対策で相談に乗って欲しいということで、不動産コンサルタントの方と共に長男の方を訪問しました。
相談の話の中で長男の方からこんな発言がありました。
「最近二男がよく父親を訪問したり、昼夜構わず電話をしてくるのです。
普段は優しく対応するのですが、時には父親に対して威嚇するような対応もあって、父親もちょっとノイローゼ気味なので、ちょっと困っているのです。
私達家族も一日中、父親の面倒を見ることが出来ないので、今施設を探しているのです。
そしてたまたま気に行った施設があって、今度体験入所するのです。
私達もようやく手が関わらずに済みそうで良かったです。」
とおっしゃったのです。
それを聞いた不動産コンサルタントの方は
「ちょっと待って下さい。その体験入所中の父親に二男の方が施設へ訪問などはしないですよね?」
と長男に聞きました。
それに対して長男は
「そういえば、父親のことが心配だから孫(二男の子供)も連れて、どんな所か見ておきたいから、訪問すると言ってましたよ」
と答えました。
すると不動産コンサルタントの方は、
「それは危険です! もしかしたら二男がその時を狙って、遺言などを書かせる可能性は高いです。
訪問を今すぐに中止しないと、大変なことになるかもしれません」
と言ったのです。
事実その後を調査すると、二男はその時を狙って、何かを計画していたことが分かったのです。。。
そして緊急で相続対策が始まったのです。
今回は不動産コンサルタントの方からのご紹介でしたので、その方の会社名で相続対策提案書を作成しました。
当社では、発注元の意向に応じて、提案書を発注元の会社名で作成することもあります。
提案リスクを負担したくない場合には、当社名で作成することも可能です。
ちなみに財産評価についても、特定の税理士には全く依存しません。
今回の場合には、お客様が既に数年前に顧問税理士にして作成していただいた財産評価書をお借りして、今回提案書を作成しました。
父親は以前から相続財産は、財産は長男に全て相続させると言ってました。
しかし遺言書は書いていませんでした。
そのため、遺言書を書く所から始めたのです。
しかし遺言書を書く場合には、兄弟に遺留分という権利が発生します。
その権利を使うか使わないかは別にして、それも考える必要があります。
父親には賃貸マンションの権利を複数部屋持っていましたので、それを遺留分として充てることを検討していました。
しかし賃貸マンションの複数部屋を遺留分として対策する場合には注意すべきことがあります。
それは相続税評価額と時価という使い分けです。
相続税申告の場合には、相続税法に従い、
「相続税評価額」=「固定資産税評価額」(※今回は建物が主なので)です。
しかし
遺留分は民法に従い、「時価」=「相続時点の時価」なのです。
では「相続時点の時価」をどうやって計算した方がいいのか?
・不動産会社が査定する金額?
・相続税評価額?
・固定資産税評価額?
しかし争いが生じる場合には、不動産鑑定士に査定した鑑定評価額が公的な価格として主張できるので、不動産鑑定士に依頼することがベターです。
そのため、今回も不動産鑑定士に依頼して、不動産を査定して時価査定額を計算して、遺留分の計算をしました。
まず遺言書を作成後、 民事信託に基いて信託契約を締結しました。
内容としては
遺言書にて遺留分を確定し
民事信託契約にて長男が相続する財産を保全することにしたのです。
特に民事信託契約は相互に意思確認の上で締結している契約で、その中で遺言の書き換えも出来ないことを契約の中で記載しました。
これによって、二男が勝手に遺言を書き換えすることを防ぐことが出来ました。
先程記載した通り、遺留分は相続財産に対しての法定相続分÷2で計算されます。
そのため、全体の財産が増えれば、遺留分は増えます。
今回このお客様はさらに自宅を取り壊して、土地活用も検討されていました。
土地活用すると建物は資産として全体財産に上乗せになりますし、家賃収入も毎年増加すれば、相続財産が増える⇒遺留分も増えるということになります。
その具体的な金額については、土地活用を想定した物件の収支表を作成して、全体財産と相続税を計算しました。
検討した対策としては
・現金の生前贈与
・建物の生前贈与
・建物の同族法人へ譲渡
・売却して、さらに不動産購入による資産圧縮
などです。
最終的には、建物の生前贈与という方法を採用することになりましたが、
「移転にかかる費用(贈与税、登録免許税、不動産取得税)」
と
「移転後の相続税削減額、賃料収入の移転額」
を比較検討して、(下記の画像の通り)
今後1年ごとに1部屋ずつ長男へ贈与することになりました。
長男が相続する予定の部屋を生前贈与することで、全体財産金額を減らし、遺留分が増えるリスクを減らそうという方向性にまとまりました。
また二男にも遺留分割当は確保しているので、全体財産が減れば、遺留分以上の金額を二男にも相続させることができることになり、お互いにハッピーになる見込みです。